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□新ネタ□




ぴんぽーん♪ (^-^)σ‖
チャイムを押すと、インターホンから眠そうな品川の声が聞こえた。
『どちらさま?』
「あ、庄司だけど」
『庄司?』
何がツボにはいったのだろうか、彼は少し笑いながら言った。
『…入って来て。開いてるから』

庄司と品川がコンビを組んで、もう5年になる。
たまに殴り合いの喧嘩もするが、絆は以前よりずっと深まっているというのが庄司の認識だ。
彼は最近、品川のアパートに足繁く通っている。

「新ネタ考えてきたの?」
開口一番、品川はそう言った。
庄司は困って首を竦める。彼にしてみればネタなんてそう安易に考えつくものじゃない。
その仕草に、平素ならちょっと不機嫌になる品川なのだが、…今日は違った。
「そっか」
軽く頷くと、うまそうに煙草を呑む。
庄司は差し入れに持ってきたコンビニ袋をテーブルの上に置き、中からペットボトルを2本取り出して1本を品川に渡した。
それからパソコンが節電モードになっているのに気が付いて、ちらりと相方を盗み見る。
品川は満足そうに笑って言った。
「庄司が来るの、待とうと思ってさ。電話で呼ぶつもりだったんだ。良いタイミング出来たね」
庄司の顔が自然と綻ぶ。
「…ネタ、出来たんだ」
「今仕上がったばっか。出来たてホヤホヤですよ、庄司君」
「例のコント?」
「そう。コント。良いでしょう?」
紫煙を燻らしながら妖しい口振りで話す品川に、庄司は苦笑を隠さず言った。
「モチロン良いですけど、何でオカマ口調なの」
「俺のキャラだからね。…品川でぇす♪」
口元に手をやり”うふん”とシナを作る様子を受け流して、庄司は軽くキーボードに触れた。
ディスプレイが元に戻る。
「読んでも良い?」
「う〜ん…恥ずかしいからやっぱりダメェ〜」
「いや気持ち悪いですから。…って、何で普段までツッコミしなきゃなんないの」
「それが庄司のキャラだからじゃない?」
「嬉しくないです」
表情は緩みっぱなしなのだが、取り敢えず会話をぴしゃりと遮って庄司はパソコンを覗き込んだ。
真剣にネタを読み進めていく。
品川は隣でペットボトルのお茶をあおりつつ、ちょいちょい口を挟む。
「どう、強盗の話なんだけど」
「………」
「ほら、ここのボケとつっこみ、…秀逸だと思うんだよね」
「………」
「面白い、だろ?」
「………」
「庄司?」
あまりに何の反応もないのを訝しんで、品川は小首を傾げて庄司を見つめた。
「庄司、どうしたー?」
「……何で?」
「は?」
パソコンを凝視したまま、庄司がぼそりと呟く。
「何でマジチューあんの?」
一瞬の沈黙。
きょとんとした顔で品川は事も無げに言った。
「だって好きだろ?庄司。俺とキスすんの」
「〜〜〜〜っ、す、好きですけどもぉ!!?」
品川の軽すぎる返事に、庄司は狼狽えながら反論した。
「だからってネタでする!?」
普通、と続けようとして思いとどまる。ネタの最中に接吻かます芸人達は少なくないからだ。
品川がクスリと笑った。
「むしろネタだからじゃない、庄司。ネタなら人前でも堂々と出来るっしょ」
「品川…」
庄司は頭を押さえてうっぷしてしまった。時々、相方の考えていることが全く分からなくなる。
それから何か閃くものがあって、ガバリと顔を上げて
「俺が犯人やる」
と言い出した。
品川は意外という顔つきで首を振る。
「何言ってんの庄司?お前ツッコミだろ」
「だからさ、ちょっと書き直してください。俺が犯人やる。犯人やりたい」
「何で?」
「………」
「何で?庄司?」
顔を覗き込まれて、反射的に庄司は必要以上に仰け反った。あっという間に品川の表情が曇る。
誤解を招きそうだと思い、庄司は慌てて理由を口にした。
「…キスシーンが……」
「あれ?もしかして本当はヤだった?」
「違う!!違いますよ、そうじゃなくて…」
また口ごもる庄司を後目に、品川はウンザリと首を竦める。
「庄司君わけ分かんない」
「………」
「な、言えって。庄司、何なの、さっきから」
はぁ…。
相方の口調に怒気が含まれ始めたのを認め、庄司は諦めて言った。
「……俺がしたいの」
「え?」
きょとんとした、でも到底可愛らしいとは言えない、むしろどこかホラーな品川の表情。
それを愛しいと感じつつ、庄司は投げやりに続けた。
「だから、俺から、したいんです!」
「…キス?」
「………」
沈黙は肯定の意。
思わず頬を赤らめる庄司に向かい、品川は呆れて言った。
「庄司……お前が犯人やってもボケるのは俺だからね、あんまり変わんないよ」
「うっ…」
たじろぐ庄司。品川は可笑しそうにくすくす笑った。
「そんなに自分からしたい?」
「………」
こくり。
相方を真っ直ぐ見据え、照れてはいるけれど真剣に…庄司は頷いた。
それを見て品川の表情が変わる。顔面のパーツを真ん中に寄せ、何やら殺すような目つきで庄司を見つめた。
考え事をするときの品川のクセだ。
庄司は内心ハラハラしながら、それでも真摯な瞳で品川を見つめ返した。
僅かに無言の時間が流れる。…最初に動いたのは品川だった。
刺すような目つきのまま、彼は唇の端をつり上げた。
そしてそのとてつもなく剣呑な表情で、言う。
「じゃあ、そーゆーネタを考えな」
「…え、」
「お前から俺にキスできるようなネタ。それなら良いだろ」
「品川…?」
庄司の伺うような眼差し。パソコンの電源を切りながら、品川は平然と言い放った。
「ネタの中では、庄司、お前、俺を好きにして良いよ」
「なっ…」
思わず絶句。
返す言葉が見つからず呆然と自分を見つめる庄司に、品川は最高に楽しそうな笑顔を送った。

「まぁ、俺が納得できるようなネタじゃないとダメだけどね、…頑張って。庄司君♪」



終われ。






品川庄司は漫才が好き。
庄司君も良いが、個人的には品川君大好き。
特にあの人を刺すような眼差しが(笑)


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